平野暁臣著「岡本太郎の仕事論」を読みました。
平野暁臣氏といえば、岡本太郎記念館の館長であり、岡本敏子さんの甥っ子でもある。
そんな生前の岡本太郎さんのことも知る著者が太郎の言葉を引用しながら実際にあったエピソードを紹介する内容でした。
「仕事論」ってタイトルにあるので、「岡本太郎に倣うビジネスに生かせる仕事術」みたいな内容かと思ったのですが、実際には岡本太郎のアートに対する哲学とも言えなくないこだわり、考え方、仕事の流儀が詰まっており、太郎さんの死後に興味を持った者としては、生き様や考え方など、どんな人物かうかがい知ることのできる一冊でした。
一部内容を紹介すると…
四番目主義
第二次世界大戦がはじまりパリにいた太郎さんは、1940年に日本に戻ります。
翌年徴兵検査を受け、中国に配属される。
そこで初年兵は、毎晩横一列に並べられて、上官に「教育」という名目で殴られていたそうです。
余談ですが、Zガンダム風にいうと「修正」ってやつですね。
で、太郎さんは必ず4番目に殴られるように志願したそうな。
1人目、2人目は「修正」する側の調子が出ない。徐々に調子が出てピークは4人目。
それ以後は腕が疲れて力が弱くなる。
なんという無意味な時間。こんなことで「教育」にならないことを誰もが分かっているのに。。
そんな状況でも逃げない。逃げずに立ち向かうことだけをモットーに四番目主義を貫いたという。
逃げ場を探して自分を守ってしまうと自分自身に負けてしまう。この状況へ立ち向かう決意の表れが四番目主義を貫くということなんでしょうね。
太郎さんは軍隊時代の5年間を「冷凍された5年間」と語り、人生でもっとも空しい思いをした時期だったようで、戦争体験を人に話すことはほとんどなかったそうです。
芸術は民衆のもの
太郎さんは芸術は道端に転がっている石ころのようなものと言い切った。
芸術作品を「いい」と直感で思ったなら、それだけわかったということだと考えた。素人こそ本当の批評眼を持っているのに、玄人になるにつれ本質でものを見れなくなっている。
だから生涯にわたってパブリックアートを作り続けた。
パブリックアートに対して、
パブリックアートはいいよ。観たくなったら、そこに行きさえすれば、いつでも誰でも、タダで観られるんだからね。
それを見て、ああ、いいなあ、と感動してもいい。
なんだこんなもんつくりやがって!と言ってもいい。
横目で一瞥しただけで無視して通り過ぎてもいいんだぞ。
芸術とはそういうものなんだ。
道端の石ころと一緒なんだよ。
といった言葉を残しています。
ちなみに絵を売ることもしなかったようで、売ってしまうと金持ちのリビングや倉庫に保管され一般の民衆の目に触れることが無くなる。
それでは最初からなかったことと同じ。
太郎さんはいつも民衆を見つめ、生活に芸術を送り込んだ。パブリックアートもその一環。
芸術は太陽と同じで、民衆に与えても見返りを求めるものではない。
だから金で売る芸術はしなかった。
人の金でも…遊ぶ、真剣に遊ぶ。
売るための絵は描かなかった太郎さんですが、普通の芸術家なら手を出さなかったようなジャンルのものも手掛けています。
例えば「マミ会館」というフラワーデザインスクールからの依頼で設計した建築物。
別の書籍で写真を見たことがあるが、動物の尻尾のような青いトンガリ、大根足の柱、残念ながら老朽化のため2002年に解体されてしまったのですが、到底今まで誰も見たことなないような建築物だった。
そして名古屋の久国寺の梵鐘「歓喜」
クライアントの住職が「ほんとうに音が鳴るのか不安」という言葉に「鳴ろうと鳴るまいと、猛烈なヤツを作ってしまおう。鳴らなければ中にマイクを入れりゃいいじゃないか。まさかそんなことにはなりっこないが」との回答。
そんな言葉に反し、鐘はとてもいい音が鳴り、今でも久国寺のシンボルです。
クライアントだからといって媚びるこよなく、そして真剣に作品作りを楽しんでいることがわかるエピソードだと思います。
まとめ
この他にも、太郎さんのエピソードや残した言葉がたくさん紹介されてます。
「太陽の塔」製作当時の万博テーマ館プロデューサーに任命された際のエピソードの詳細や、パリ時代の後半は民族学の研究に没頭した話。
「絵画の石器時代は終わった」と当時の芸術を批判して、業界全体を敵に回した話や忖度やおべんちゃらなどを使わず最初から自分自身を追い込み、そして有言実行で周囲を認めさせる行動力。
平野暁臣さんが他の書籍で書かれていたのですが、まさに岡本太郎が生涯かけて作り上げたただ一つの作品が「岡本太郎」なのだという岡本太郎哲学が分かる本でした。
読みやすく、通勤電車のなかですらすらと2日くらいで読了しました。
人付き合い、忖度、上下関係などさまざまなものに縛られた現代人にはなかなかできない生き方ではありますが。。。。
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